秘書 萌美(61-80)

2021年10月26日

秘書 萌美(61)

 萌美の接待によって『望洋の郷・住宅建設』の請負工事の指名を勝ち取ってから、小野田ハウスでは見積書の作成に取り掛かっていた。

 その見積書の作成に問題点が浮かび上がった。それは見積の工事単価を『建設物価』や『積算資料』に頼るだけでいいのか、それとも会社独自の単価表を手に入れる必要があるのか。

 京葉電鉄は大手デベロッパーではないが電鉄会社としては大手である。だから電鉄部門と不動産部門を合わせた独自の工事単価というものがあるのかもしれない。だとしたら、その工事単価を掲載した『単価表』を手に入れなければ予定価格に近い見積書を作成することができない。

 その辺を社長の小野田と開発部長の間で話し合いが行われ、秘密裡に建設関係に強い調査会社に探りを入れてもらうことになった。その結果、京葉電鉄の不動産部に『単価表』なるものが存在することが判明した。

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 入札を来週に控えた八月の第四月曜日、小野田は出勤するとさっそく秘書たちを応接間に呼んだ。

 小野田の正面には室長の倫子。その両隣には響子と萌美。それぞれソファーに腰を下ろしてタイトスカートから美脚を惜しげもなく披露している。

 その三人の秘書は社長と取り交わしている暗黙の了解を順守して、脚を組むことはしないで美脚の行き止まりまでお見せしている。小野田も本題を切り出す前に三人の秘書の美脚の奥の光景をじっくりと観賞させてもらう。
 
 室長の倫子が穿いているショーツは三人の中でデザインが最も淫らで小野田の目をいつも楽しませる。そして響子は人妻らしいシンブルなデザインを愛用して変らぬ貞淑さを訴えている。そして萌美の脚の奥だが…。

 輝彦に抱かれてから装いを新たにしていた。若い女は男に抱かれて絶頂を経験すると髪型から服装まで変えてしまうが、その変化がショーツにありありと表れている。見ている小野田もひやひやするほどに白いナイロンの布地が乏しく、女の形もすっかり布地に映してしまっている。

 …さては逝かされたな。

 小野田は萌美の脚奥から視線を戻すと、秘書たちを見廻して、こう切り出した。
「…それで要件だが」
 
「京葉不動産から工事の単価表を手に入れて欲しい。見積書の作成にはどうしても必要だ。もし手に入れたら特別な手当てをだしてもいいぞ」と。

 すると室長の倫子が身を乗り出して、
「ゴルフでチャンスを作ったらどうかしら」と微笑んできた。

 萌美の研修で京葉電鉄不動産の造成地を視察した時、輝彦と萌美の会話を思い出したのだ。萌美が学生のときにゴルフをしていたことを聞いて輝彦がしきりにゴルフを誘っていたのを…。

 そして倫子も顧客の接待でゴルフのお付き合いまでするようになっていて、そのゴルフ仲間に京葉電鉄の社長がいる。だから、その社長と息子の開発部長の輝彦、そして倫子と萌美の四人のゴルフコンペは可能になる。

「それはいい!」
 小野田も倫子の頼もしい返事に身を乗り出して彼女の手を握りしめた。

 倫子としては、このへんで活躍しないと室長に昇格させてもらった御恩を小野田に返せない。

 応接間での秘書たちとの話し合いの後、小野田は社長席に戻り、秘書たちもそれぞれの席に戻った。

 倫子の席は三人の秘書の内、最も小野田の席に近い。だから社長席の細々とした事や小野田本人の息づかいまでが聴こえるときがある。そのなかでも、部下の秘書たちとの密やかな行為までもが聴き取れてしまう。

 特に新入りの萌美との秘め事は悩みの種になっていた。京葉の部長に抱かれて以来、嫌らしいほどに色気づいて、日に一度は小野田に触らせている。

 室長の立場としては部下が色気づくのはむしろ秘書として好ましい事でもあり、見て見ない振りをしているが、愛撫で反応している女の声を聴かされる立場としては、いくら上司といえども居た堪れない。

 それで自分の席に戻った倫子だが、萌美が午前の部の関係課から回ってくる稟議書を小野田の席に持参する前に邪魔しようと頃合い窺っていた。

 そして総務部からの稟議書を萌美が受け取ったとき、倫子は何食わぬ顔で席を立って社長の席へと向かった。

「例のことだけど、ゴルフのコンペで単価表を賞品にしたらどうかしら」
 倫子は社長席に行くなり、頭に浮かんだアイデアを小野田に持ちかけてみた。

 小野田は机の書類から視線を戻して倫子に向き直る。
「なるほど。勝って単価表を手に入れるか。…だが、負けたらどうする」

「大丈夫です。 新海さんを連れていきますから」
 倫子はそう言って小野田に胸を張った。

 萌美は学生時代ゴルフ部に在籍していて、関東女子学生大会のベストテンにランクインした実績がある。小野田もそれを知っているから頼もしい限りだと思ったが、負ければ相手は女好きの連中のことだ、この機会にとばかり二人を容赦しないだろう。 


nasu2021 at 17:19|PermalinkComments(0)

秘書 萌美(62)

 四、戦士の戦い

 その週の金曜日に京葉電鉄の幹部とのコンペが決まった。倫子が直接、社長の五島慶太に要件を記したメールを送って了解の返事を頂いたのだ。

 慶太とはゴルフのコースを何回もご一緒している。そのたびに宿泊ゴルフや温泉旅行を誘われていた。倫子はこの絶好の機会にコンペの賞品を単価表と温泉旅行を条件にしてはどうかと、伺いのメールを送ってみたというわけだ。

 慶太からの返事はすぐに来て、その日にコンペの会場まで決まった。京葉電鉄不動産が造成している『望洋の郷』に隣接した直営のゴルフ場だった。

 その当日の朝早く、二人の秘書は会社のある最寄りの駅で待ち合わせてタクシーでコンペの会場へと向かった。遅刻は厳禁で
二人は道路の渋滞に気を揉んだが、運転手の機転で近道をしてくれたのが幸いして、ぎりぎりの時間にクラブハウスに着いた。

 倫子たちがフロントに行くと輝彦からの伝言のメモと女性のゴルフウェア二着をクラブハウスのスタッフから渡された。倫子はそのメモを開いた。

『お望みの工事単価表は門外不出でありますが、特別に一冊、持参してきました。このことは他の業者へは何卒、口外または閲覧無きことを宜しくお願いします。その見返りとしては恐縮ですが、こちらが用意した女性用のウエアーを身に着けて頂きたく存じます』
                          京葉電鉄不動産部、開発部長 五島輝彦


「ウエアーまで用意しているなんて…」
 倫子はビニールで包装されたウエアー二着の内一着を萌美に渡すと、ゴルフバッグをキャリーに乗せて、女性の着替え室へと行く。

「なんか怪しいわ…」
 倫子と一緒にキャリーを押していく萌美が呟く。あの輝彦のことだった。ウエアーに嫌らしい細工が施されているのではないかと心配する。

 着替え室に行き、二人はさっそく、ブレゼントとされたゴルフウェア―に着替えていく。ブラウスを脱いでポロシャツを着てみる。これは問題なし。胸の辺りも故意の穴あきは無く、ふつうのシャツだった。

 次はスカート。二人はタイトスカートを脱いでウエアーのスカートを広げてみる。ブランドのバーリーゲイツのミニの台形巻きスカートだった。裾を止める三つのボタンが全て省かれている。

「嫌らしい! スイングのとき、丸見えになるじゃない」
 思わず声を上げる萌美。

 その隣で倫子がスカートを広げたときに床に落ちたメモを拾った。短文が記されている。丁寧な楷書で次のように書かれていた。

『これがハンディーです。断っておきますがタイツとかパンストは厳禁ですよ。そちらには学生時代のゴルフチャンピオンの秘書さんがいるのですから。では、コースでお待ちしております』

「なるほどね…。しかたがないわ」
 勝ちの勝負は簡単に手に入らないか。倫子はそう自分を納得させると、タイトスカートとパンストを脱いで生脚になるとボタンの無いミニの巻きスカートを穿いていく。そして最後に踝までのストッキングを穿いてゴルフシューズを履いた。

 それを見ていた萌美もしかたなく倫子と同様にスカートを脱いで、ミニの巻きスカートを穿いていく。ズボンで戦うつもりで、いつものデリケートなショーツを穿いてきたのが裏目に出てしまった。

 これではスイングやコースを読むときには女の形まで男の目に晒してしまうことになる。それを耐え忍んで勝ち抜いていくのは並大抵のことではない。萌美は深いため息を何度もついて上下のウエアーに着替えると、倫子とロッカーを後にした。

                 *****

 輝彦たちは、すでに一番ホールで意気揚々と待っていた。

 萌美が初めて会う輝彦の父親、つまり京葉電鉄社長の五島慶太は五十代後半の、いかにも女好きの精力的な風貌をしている。

 その慶太が倫子に手を伸ばしてくる。倫子はその彼の手を握って慇懃なご挨拶をした後、
「こちらが秘書の新海です」
と、萌美を紹介する。

 萌美は一歩、彼の前へと進み出て、微笑を顔に溢れさせて、
「秘書の新海です。よろしく」
と、慶太にご挨拶をして、お辞儀をする。

 その秘書たちを見つめていた輝彦が、さっそく萌美の傍に来て、腰に腕を回してくる。
「お二人とも悩ましい限りですね。これではこちらもショットが乱れますよ」
と、萌美のボタンの無い巻きスカートを見下ろしてくる。

「あら、この程度で心が乱れるようなお人だったかしら」
と、萌美は美しく微笑んで、気の強いところを見せる。

 その二人の仲の良いところを見せつけられた慶太も、倫子の腰に腕を回して引き寄せる。倫子もコンペといえども、接待ゴルフに変わりはなく、彼の腕の中に身を寄せる。

 それを見つめながら輝彦は、
「今日はキャディーを付けないセルフなので、お互いゴルフ以外にも楽しみましょう」
と、さっそくスケベ根性を露わにする。

 倫子もこちらの立場を明確にするために、
「単価表のこともお忘れなく」
と、釘を刺しておく。

 そうして小野田ハウスの秘書と京葉電鉄の幹部とのゴルフコンペは始まった。その競技方法は午前と午後を合わせた全18ホールのスコアと決まった。これで秘書たちが勝てば単価表を得られるが、負ければ温泉旅行で男たちに好きなようにされる。


nasu2021 at 18:57|PermalinkComments(0)