秘書 倫子(21-40)

2021年10月22日

秘書 倫子(21)

 男滝から遊歩道に戻っても小野田の姿は無かった。

「まだ時間もあるし、残りの滝を見てから戻りましょう」

 檜山が倫子の肩に手を置いて促がしてくる。
 
 倫子は小野田の姿を捜したが、気を利かしたつもりなのか道の先にも後にも姿は見えない。しかたがなく、倫子は檜山に誘われるままに彼と遊歩道を歩いて行く。

 ときどき擦れ違う観光客のほとんどが若いペアで、道の外れで抱き合っている若い男女もいる。檜山の説明ではこの神山三滝は男女の性器を祀り、性交と安産祈願の神様を祭っているという。たしかに次に観た女滝では岩壁があまりにも女性器に似ていて、落ちる水までが女の体液みたいだった。そして滝壺でも若い男女が抱き合っていた。

「男と女が抱き合うのは、ここではなんでもないのですよ」

 檜山がそういって倫子の腰に腕を回してくる。男滝での既成事実と目の前で抱き合っているカップルを前にしては倫子も抗うことができない。 

 最後の夫婦滝では岩壁の頂きに岩と岩が折り重なった部分があり、いかにも男女が性交しているようで、落下する水が散りながら滝壺に落ちていく。

「あの滝の水はなにを表わしているのかわかります」
「いいえ」

 その倫子の耳に檜山が囁いてきた。

「男女の交合で飛び散る愛液ですよ」

 臆することなく口にしてきた檜山に倫子は顔を染めた。
 その倫子の腰に檜山は腕を回す。倫子は強く拒むことができずにブラウスの突き出しを檜山に押し付けていく。

 「あなたが好きになりそうです」

 檜山は抱き寄せた倫子の背中からお尻まで手を這わせていく。

「…こまります」

 これから大切な取引先にもなる芙蓉不動産の檜山に倫子は、これ以外の言葉が思い浮かばない。嫌うのではなく受容しながらの拒みしかできない。
 
 その倫子の遠慮した態度に檜山の手は大胆になっていく。抱き寄せている倫子の背中を擦りながらお尻まで落ちると、太腿を擦りながら前へと這わせていく。

 男滝では檜山の手から逃げ延びた倫子の過敏な部分が、内腿を執拗に愛撫しながら這わせてきた檜山の手に捉われる。

「…ぁ」

 と、倫子は微かな声を漏らして腰を引くが、結局は強く抱き寄せられてパンストの上から大切な部分のすべてが檜山の手に納められる。

「貴女と最初に会ったときから、こうしたかった」

 その檜山の言葉には信念が込められている。あの初対面で、故意ではないにしても見せてきた悩ましい美脚の奥を、己の手中に納めたいと思うのは男なら当然のことだった。

 一方、倫子は小野田といい、この檜山といい、女のもっとも恥ずかしい部分を直接、責めてくるのは、建設会社の男に共通した不器用な愛し方だと思っていた。恋仲でもない関係では接吻は似合わないし…。

「好きになってもいいでしょう」
「…こまります」

 倫子は腰を僅かにくねらせて逃がしながら返す。その腰のくねりが過敏な部分への摩擦を生んで身体をよけいに火照らせていく。 

「なぜです」
「…なぜっていわれても」

 このまま女の部分を捉えられていれば萎えていくのがわかっている倫子。腰を逃がしながら男滝の時と同じように手を彼との間に差し入れていく。それでも、女の部分に纏わりついてくる檜山の手。

 その嫌らしい彼の手に倫子の女体が降参したかのように潤いの兆しが…。

 倫子は気力を振り絞って彼の胸から身体を離した。



nasu2021 at 14:14|PermalinkComments(0)

秘書 倫子(22)

 そうして三つの滝を観終えた倫子たちは旅館の駐車場に戻った。そこに小野田が運転手と話しをしながら待っていた。

 倫子はその小野田に事の成り行きを説明した。すると彼は顔を綻ばせて、こうなることを予想して旅館の一部屋を借りて接待の準備ができているという。倫子は小野田の手際の良さに感心した。檜山も小野田から聞いて照れながら彼の後について旅館に入っていく。

 小野田が手配した部屋は渓流を臨む和室の広い部屋だった。すでに部屋には宴会用の料理が並べられている。倫子たちは窓外の渓流を眺めながら檜山が風呂から上がってくるのを待った。

「少しは濡らされたのか」
「ええ、とっても。滝のたびに抱き締められたの」

 倫子は開き直って返し、小野田を挑むように見つめる。

 あの宿泊視察から帰ってから倫子は一度も小野田に抱かれていない。それというのも彼が誘ってこないからだが…。だからといって女の自分から誘うことなんか論外な倫子の口からは嫌味な言葉が出てしまう。

 小野田が倫子を誘わないのは彼女を欲求不満にして顧客を接待させる意図があるからだ。

「それは結構なことだ」

 小野田はそう返すと窓外の渓流に視線を預ける。

 やがて風呂から上がった檜山が浴衣で部屋に現れた。その檜山を倫子たちは笑顔で迎えて席に着かせると、倫子は檜山の隣に小野田は彼の正面に座った。

 檜山に小野田が麦酒を注ぎ、その小野田に檜山が注ぎ返す。そして倫子は檜山に注がれて乾杯となった。互いに相手の会社を褒め讃えた音頭を口にし、コップの麦酒を飲み干す。

 そうして始まった檜山の接待だが、滝の散策で倫子を強引に抱き寄せるようなことをした大胆な男が、改まった酒宴の席では別人のように大人しくなっていた。

 その彼の隣に座っている倫子はほっとしていたが、小野田はそんな檜山が気にくわなかった。倫子に対してたっぷりと破廉恥なことをさせて恩を売り、いくらかでも請負工事の指名を確かなものにしたいのが彼の本音だからだ。



nasu2021 at 15:06|PermalinkComments(0)